ヘイセイラヴァーズ

本、舞台、映画、歌、短編小説、エッセイ、アイドル、宝塚歌劇、など、、、☺

お金と幸せについて(エッセイ④)

東京でOLをしていると、とにかくお金が必要だ。渋谷や新宿や、そのほかのどんな街にも、キラキラしたものがたくさんあって、それらはすべて幸せそのもののような形をしている。しかもそれらはお金と引き換えに自分にも手に入れることができる。 例えば秋にな…

Garaxy Express in Tokyo(短編小説)

真夜中の最終電車は空いていて、まるで自分の部屋が移動しているみたいだ。 そういうと彼女は、じゃあ何してもいいよねと言って素早く煙草に火をつけた。白い煙が細く上がってあっという間に天井を這っていく。私は天井の端に小さな煙探知機を見つけて彼女の…

絵の効能(村上春樹『騎士団長殺し』感想)

目に見えるものをコピーするなら、写真を撮るのがいちばんだと思っていた。目に見えないものをコピーするなら、言葉で表すのがいちばんだと思っていた。だから私は中学校も高校も美術の授業を真面目に受けず、隣の席の友だちとの無駄話の内容ばかりをはっき…

デイ・ドリーム(短編小説)

明け方のタクシーに乗るのが好きだ。 だからなるべくぼんやりと窓の外の景色を眺めようと努力していたが、ダメだった。さっきまで目の前にいた彼女の姿が何度打ち消してもどうしても浮かんできてしまう。大学の同期で、三年ぶりに会った彼女は、薄いピンク色…

夏の終わりに(短編小説とエッセイのはざま)

昼間がクソ暑かったわりに夕方は涼しかったので、私たちは川原に座って花火が上がるのを待っている。周りには色とりどりの華やかな浴衣のたくさんの女の子たち、目の端でチラチラ揺れる髪飾り。その中で紺は少し地味だったかな、と私は気にしてばかりいる。…

消えて行ったラブレターたちについて(エッセイ③)

好きな人の下駄箱にラブレターを入れたのは、高校生の頃だ。 彼は物静かな人で、教室をのぞくといつも本を読んでいた。誰かに話しかけられると本から顔を上げて笑って何か答えていて、その優しさとおとなっぽさに私は憧れた。 その作戦を決心した朝、私は誰…

シロの言い分(短編小説feat. 『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』)

窓を開けて、雨を見る。煙草に火をつけて、私は思い出している。私がまだ「ユズ」ではなく「シロ」だったときのこと。名古屋から遠く離れたこの町で。 あの夜私は、たしかに彼の部屋にいた。彼の部屋は思った通りとても居心地が良かった。灯りはオレンジ色…

きょうだいの不思議(映画『未来のミライ』感想)

「夢を見ると思い出すもの 丸いおでこ光るあの子 横になって端に寝るよ いつも愛が漂う」 『兄妹』星野源 私には顔がそっくりな妹がいる。 年もけっこう離れていて、背丈もだいぶ違う。だけど友だちに写真を見せれば笑われ、買い物に行けば店員に双子かと聞…

オモシロキ コトモナキヨヲ オモシロク(宝塚星組『ANOTHER WORLD』感想)

この真実は、果たしてこの世でもあの世でも同じみたいだ。 あの世(アナザーワールド)で繰り広げられるこの舞台は、オモシロクできるところは貪欲に、でもそれ以上に、オモシロキコトモナキ何気ない会話の言い方一つ、仕草や表情の一つを取っても、出演者全…

インタビューかえるくんについて(短編小説feat.『かえるくん、東京を救う』)

おう、俺はかえるや。正真正銘、どっからどう見てもかえるやで。え、わかってるって?なんや、それならなにしにきたんや?おおう、わかってる、みなまでいうな。俺に取材したいんやな?かえるの生活、梅雨以外はどうやって暮らしてるかってな?それきになる…

もういいから、踊れ!!(村上春樹ブッククラブに参加して③)

課題図書:『神の子どもたちはみな踊る』 「神様、と善也は口に出して言った。」 小説はこの一文で終わる。 この場合の神様は何をさすか? 最初これは善也の中の倫理観、価値観、道徳のことだと思っていた。自分の中にいる神様的存在に呼びかけているのだと…

アラサーOL、花晴れにハマる(ドラマ『花のち晴れ』感想 後編)

TVで宇多田ヒカルの「プロフェッショナル仕事の流儀」をぼんやり見ていた。カメラはレコーディングの様子を追って、彼女は「初恋」という曲についてこれから演奏を録音する楽器奏者たちに説明していた。 「この曲は恋の喜びの歌でもあり、終わってしまった…

劇評『薔薇と白鳥』

RESPECT WONDERLAND/ROSE & SWAN ◎私たちの生きる現実は舞台の上の演劇と同じなのか メタフィクションというジャンルをどのくらいの人が知っているだろう?ネットでそれは「フィクションについてのフィクション、小説と言うジャンル自体に言及・批評するよ…

ヒマについて(エッセイ②)

忙しい。毎日ほんとに忙しい。完全に心を亡くしてます。たっぷりOL業通勤ご飯お風呂家事、時間がマジでない。女子力ってなにそれオイシイノ状態。そりゃ髪乾かすのも雑になります。服も適当になってきます。イカンイカン、これは鬱の循環。オーエルイントー…

アオハルかよ…(『桐島、部活辞めるってよ』感想)

高校を舞台にした小説がニガテだ。もっと言えば、漫画も映画も舞台もニガテだ。心がキューっと掴まれているような気持ちになる。または肩を持ってガタガタ揺さぶられているような。だからニガテだった。この小説も好きになれないだろうと思っていた。 スクー…

文書2(短編小説feat.村上春樹『スプートニクの恋人』)

小学校を卒業して、中学校、高校と上がっていくにつれて、ぼくを「にんじん」と呼ぶ人はだんだん減り、ついにいなくなった。それはたぶんぼくの風貌の変化によるものだと思う。部活で始めたアメリカンフットボールのせいで、ぼくの体は大きくなり、髪を短く…

文書1(村上春樹ブッククラブに参加して②)

課題図書:『スプートニクの恋人』 私は今、語れば長い運命のとりあえずの帰結として、東京の小さなアパートの一室にいる。時刻は午前4時少し過ぎだ。もちろんまだ夜は明けていない。ワールドカップの試合を応援していた善良な人々はやっとベッドに入って夜…

八乙女光に魅せられて(舞台『薔薇と白鳥』感想③)

クリストファー・マーロウはかわいそうな男だ。 最後に殺されるからじゃない。 ずっとずっと、かわいそうな男だった。 なぜだろう? 金がなくて、知り合いに無心し続ける情けない男。 住むところもなくて、酒場で仕事をするまでに落ちぶれた小汚い男。 好き…

脚本の1ページは忘れ去られて(舞台『薔薇と白鳥』感想②)

「かたいこと言うなよ。芝居なんてどうせ全部うそっぱちなんだから。」 娼婦街のジョーンの部屋にいるマーロウ。手すりにつかまって空を見ている。 そこにジョーンがはしごを使って窓から入ってくる。 マーロウ おい、そんな服着て梯子なんか登ったら破ける…

伏線を宝石のように散りばめて(舞台『薔薇と白鳥』感想①)

どうしてすぐに気が付けなかったのだろう。ヒントはあんなにたくさんあったのに。 あの時のマーロウに、あんなに豪華な薔薇の衣装を自分で用意できるはずがない。プライドの高いマーロウが、簡単に人のことを自分より才能があるなどと認めるわけがない。まし…

男役が演じる女役の凄味(宝塚宙組『天は赤い河のほとり』感想)

私がずっと気になっていたのはネフェルティティ(澄輝さやと)。若い子たちは大丈夫。好きな人といればこれから幸せになっていく。どの時代を選んでも、それは変わらない。だけどネフェルティティは(それにしてもすごい名前だな)、これまで何十年もずっと…

マジで引きずりすぎ(『君の名前で僕を呼んで』感想)

始めにたくさんの予防線を張らせてください。 私は同性が恋愛対象という訳ではありません(たぶん)。だから、本当に同性を好きになるという気持ちが理解できるわけではないかもしれない。 私は腐女子ではありません(そうか?そうか?)。だから、とにかく…

ホテル・ホテル・ホテル(村上春樹ブッククラブに参加せずに)

課題図書:ダンス・ダンス・ダンス 村上春樹の小説を読むといつも思う。主人公の男はどうしていつもこれほどまでにまともなのだろう、と。風呂に湯をはってそこにつかり、出かける前は歯を磨き髭を剃り、派手でない車で出かけて、ビールを飲んで料理をして、…

村上小説の思い出(エッセイ)

村上春樹の小説を読むと思い出すのは、彼のことだ。 村上春樹を崇拝していた彼。出会ってすぐにそのことで意気投合して、しばらくの間とても親しい友だちだった。何度か一緒に飲みに行って、酔っぱらって彼の部屋に転がり込んで、だけどあまりにもなにもない…

続・失われた皮むき器について(短編小説)

手に入れたものはいつか必ず手放すときがくることを彼は知っていた。そして一度手放したものは少しずつ忘れていつか思い出さなくなるときがくるということを。 皮むき器がなくなっていることにショーが気が付いたのは、彼がマッシュポテト作りに取り掛かろう…

旧姓木野(短編小説feat.村上春樹『木野』)

私は俗だ。私は俗な人間の代表で、彼はもう透明になりかかっていた。毎日一緒にいたのに。 私が浮気をしたのは、彼を傷つけてみたかったからだ。彼が私の浮気を知り、めちゃくちゃに傷つくことを夢見ていたといってもいい。でも実際はどうだったか?あのエッ…

正しいことと正しからざること(村上春樹ブッククラブに参加して)

課題図書:『木野』 その日私は、彼氏と大喧嘩中だった。 前の夜に電話で喧嘩して、電話を切った後に大泣きして、あまりよく眠れないまま、朝その本屋に向かった。せっかく楽しみにしていた日だったのに、最低の気分で。 だけどその日の課題図書『木野』を読…

ページを開かなければ誰も知ることはなかった(小説『君の名前で僕を呼んで』感想)

「映画を見る前に読むべきか、映画を見てから読むのか、どちらがよいのか誰にもわからない。」 帯のこの惹句は正しいと思うが、映画を気軽な気持ちで見てしまった私は、選ぶ余地なく原作の小説を映画の後に読むことになった。映画のエリオはその美貌を大きな…

アラサーOL、花晴れにハマる(ドラマ『花のち晴れ』感想 前編)

道明寺とつくしの恋にあこがれて早十ウン年。花男は私たちの恋のバイブルだった。大人になったらあんな恋が出来るんだと思っていた。 だけど小学生だった私たちは彼らと同じ高校生時代をあっという間に過ぎ、気づけば花男のセカンドシーズンを眺めている。長…

旅行について(エッセイ①)

旅行が嫌いだ。その一言を言いづらい世の中だ。そんなことを言う奴は非女子だ。非国民であり非地球人だ、もはや。このグローバルな世の中では。 戦争になんか行きたくないと言えなかった若者たちの気持ちがよくわかる。(それはオーバーか)圧倒的なムードの…