ヘイセイラヴァーズ

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巨峰サワー(味覚にまつわる短編小説⑤)

 知念くんは酔っぱらって今夜もまた男も女もトリコにしてる。誰彼かまわずひざまくらしてもらってる。何をしてても許されてる。だけど目がギラギラしてる。

 私のひざの上にもコテンと頭を乗せてくる。私は持っていたお酒をテーブルに置く。顔に水滴がかかったらかわいそうだから。彼は私の顔を下からじっと見上げてる。

 俺ってね、オオカミ男なんだよね。

 知念くんは私から目を離さずに言う。月の光を浴びて、彼の黒髪の先がきらきら光る。他の誰にも聞こえていない。そうなんだ、と、だから私が答えるしかない。

 満月になるとね、オオカミに変身するの。体もムキムキになってね、服とかも破けたりして、突然。ねえ、怖い?

 そう言って知念くんはいつも通りにこにこ笑ってる。でもどこかいつもと違う。酔っているから?目をそらさないから?

 女の子がやっぱり一番おいしいんだよ。

 そう教えてくれた顔がかわいければかわいいほど、怖い。それが彼の夜のお誘いの常套句なのか、それとも彼が本当にオオカミ男なのか、純情すぎて私には判断できなかった。

 気がつくと彼はみんなの輪に戻って、さっきと変わらず誰もを受け入れてる。目線はふらふらさまよってる。だけど巨峰サワーで濡れた口元から一組の牙がきらっとはみ出していて、そのくちびるは、もうすぐ満月だね、と動いてる。それは、この場にいる誰もが見落としていた本当の話。オオカミ男は巨峰サワーが好きなんだ。