ヘイセイラヴァーズ

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八重歯を持つ者はみな天使(2/3宝塚雪組『SUPER VOYAGER!』感想)

 「初めてのレッドカーペットはドキドキで、前夜はうまく眠れなかったほど。でも車を降りてカーペットに足を着けた瞬間、ふわっと風が吹いてドレスの裾がきれいに風に乗ったの。」

 カリスマモデルの水原希子はそう語った。そして彼女が車から降りたったその瞬間、その周りにいた人たちは一人残らず彼女に恋をしただろう。

 私にはわかる。なぜなら私と彩風咲奈さまとの出会い方と同じだから。舞台の上で”カレ”がくるりとターンして、黒い燕尾のしっぽがふわりと持ち上がり、美しい孤を描いたその時、私は一瞬で恋に落ちた。

 そのときから私は、誰よりも背が高く、誰よりも長い手足で、誰よりも高くジャンプし、誰よりも舞台の上で軽やかに踊るカレから目が離せなくなっている。

 今回の「SUPER VOYAGER!」のショーでもそうだ。他にどれだけの美形がいても、どれだけ歌が上手い人がいても私の目は常時カレに釘づけ。ロックオン状態。

 カレの魅力はなんといってもそのカオとスタイルのアンバランスさ。完璧な肢体についているのは、笑うと見える八重歯と、つん、と少し上にとがった鼻のファニーフェイス。このファニーフェイスが何ともいえずに愛らしくて、胸がキュンとする。

 並べるのもどうかとは思うが、私のコンプレックスの大きい前歯や丸い鼻もこんなふうに誰かの目にはファニーに映っていればいいなと思う。きっと本人は気に入っていないだろうその人の”ファニーさ”にハマったとき、ハマられたときに、人は幸せな恋に落ちるのだと思うな。

 もう一つのカレの魅力は、ワイルド担当なところ。「俺は獣にかわる、お前は餌食だ」......すばらしい歌詞。指差してピンポイントで歌われた人は死んだんじゃないだろうか?黒い衣装で身体を揺らすのも本当にやめてほしいし、そのまま下目づかいで色気を出しながら笑うのも勘弁して?

 でもカレのその笑顔を思い出すとき、私の頭の中の風景はいつでも春だ。どんなにクールなダンスをしていても、男気あふれる表情をしていても。それはカレが風に乗って私の前に現れたという出会い方とと大いに関係しているのだろう。恋に落ちた瞬間をこれほどまでにはっきり覚えている人は、私にとって、カレたった一人だ。