ヘイセイラヴァーズ

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旅行について(エッセイ①)

 旅行が嫌いだ。その一言を言いづらい世の中だ。そんなことを言う奴は非女子だ。非国民であり非地球人だ、もはや。このグローバルな世の中では。

 戦争になんか行きたくないと言えなかった若者たちの気持ちがよくわかる。(それはオーバーか)圧倒的なムードの力。そうして私はまた運ばれ、連れて行かれる。日本各地へ、海外へ。

 それでも私はもう一度言おう。旅行が、嫌い。理由はいくつかある。

 人並み外れて面倒くさがりな私は、何かを調べる(本、インターネット等)という行為がつらい。だから持ち物だったり交通経路だったり、常に何かを調べている必要がある旅行はハードルが非常に高い。

 人並み外れて貧乏性な私は、旅行中は「特別な時間」なのだから楽しまなくてはならないというプレッシャーに負ける。負けて、旅行中は必ずどこかしらの小さな不調を抱えることになる。コンタクトレンズの調子が悪くて目が痛いとか、夜中眠れなくて昼間異常に眠いとか、そういう人にいうほどではない小さい不調。こんなことなら家でのんきにごろごろしていた方が楽でよかったと旅先で何度思ったことか。

 だけどたぶん一番大きな理由は「旅先で死にたくない」ということかもしれない。旅先で死ぬのがコワイ。自分がよく知らない土地で、よく知らない人と死ぬのがコワイんだと思う。旅行は日常よりも少しだけ死に近づく気がする。それは慣れない土地に感覚が研ぎ澄まされているからなのか、単純に夜が静かだからなのか。旅先で見る暗闇はとても恐ろしい。

 でもだからこそ、旅先で見た景色はくっきりと鮮明だ。

 カナダの小さな島の夕日を浴びた街並み、ずっしりと甘すぎるケーキと暇そうな馬車係の金髪のお姉さんたち。大勢で一緒に行った沖縄でみんなに隠れて彼氏とした夜中のキスと、森の中にわけ入っていくあの子のビビットピンクの鮮やかな上着。国際通りをデカい荷物をガラガラ引きずりながら歩き回ったこと。山梨で真っ白の吹雪の中を怖い話をしながら運転している友だちの妙に爛々とした目。台湾の路地、朝のおかゆ、夜の本屋、霧がかかったお茶屋

 こういう景色は脈略も順番も関係なく突然心に浮かんできては人生を彩る。

 だけどそれでもやっぱり私には、例えば「毎日を旅するように生きる」とか、「荷物一つを持ってすぐまた出かけて行こう」とは思えない。スナフキンにはなれない。これは気質の問題だ。

 だけどあまり怖がるのはやめよう。

 出かけていく自分の背中に、周りの人の背中におまじないを。

 BON VOYAGE

 良い旅を。いやそれよりも、安全な旅を、どうか。

 所詮私たちは、いつでも旅の途中。