ヘイセイラヴァーズ

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正しいことと正しからざること(村上春樹ブッククラブに参加して)

課題図書:『木野』

 

 その日私は、彼氏と大喧嘩中だった。

 前の夜に電話で喧嘩して、電話を切った後に大泣きして、あまりよく眠れないまま、朝その本屋に向かった。せっかく楽しみにしていた日だったのに、最低の気分で。

 だけどその日の課題図書『木野』を読み、みんなで話をして、私は自分がなぜこんなに怒っているのかがわかった。

 「正しからざることをしないでいるだけでは足りないことも、この世界にはあるのです。」

 これだ。小説の中のこの言葉が答えだった。

 私の彼氏は、クールだ。優しく、そしてクール。電話も毎日してくれて、会える週末は私のために時間を空けてくれ、例えば私が昨日のように怒っても冷静だ。まるで何も感じていないように。そうそれは「木野」のように。

 だけどなぜ自分が怒っているのかわからずに混乱している時にそうされると、怒っている私の方が悪いみたいに感じられる。頭が悪くて、わがままばかり言っている贅沢ものみたいに。

 彼はクールで、もちろんなにも間違っていない。だけど彼のその態度は私にとって「正しからざることをしない」状態だとその時感じた。「正しいこと」をしてくれよと思って、私は頭の血管が切れたのだと思う。この場合の「正しいこと」とはなにか。例えば会えるかわからないけど突然会いに来る、とか。飛行機のチケットでもなんでも取ってくる、とか(今回の喧嘩の直接の原因は旅行がテーマだったもので)。クールから飛び出して、危険を冒すということ。

 そういう衝動や情熱がない彼に悲しくなってしまったのだと思う。木野の奥さんも。その結果、彼女の場合は浮気をして、彼の気持ちが動くかどうかを試してしまったのではないのだろうか。

 そんな奥さんの気持ちがその時の私には一番近く感じた。

 だけど、ブッククラブで皆の話を聞くうちに、こういう衝動は普通は抑えている人が多いものだと知った。クールに見えていても何も感じていないわけではなくて、処理に時間がかかることがあるということを初めて知った。

 それを知った時、私は仲直りをしに彼に会いに行こうと思った。

 木野の奥さんの方法(浮気をして彼の心を破壊してみること)以外に、彼の心を動かす方法がないかを探りたい。私と同じような表現の仕方をしないだけで、何かを思ってくれているのならそれを知りたい。

 彼にそう言ったら、笑ってくれるだろうか?