ヘイセイラヴァーズ

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ちほさん(短編小説feat.『石のまくらに』)

課題図書:『石のまくらに』

 

 ピクニックと連絡が来て思い出したのは、小さい頃よく読んだ「赤毛のアン」のこと。アンはある晴れた日、家の近くの花畑に親しい友達数人とピクニックにいく。お昼ご飯やお菓子を詰めたバスケットを持って。朝焼いたビスケットの匂い、色とりどりに咲き乱れている花の香り。私は目を閉じるといつでもそこに行くことができる。

 今日のピクニックもそれにかなり近い。秋の始まりの涼しい風に髪を揺らせて、お菓子やドーナツを囲んで肩を突き合わせて、私たちはそれぞれ考えて持ち寄った短歌をビニールシートの上に広げていた。東京のど真ん中、刈られたばかりの青い芝生の上。

 私の人生に、こんな場面が登場するなんて思わなかった。こんな絵に描いたみたいなひと場面が。夢みたい。

 ひとつの歌についてだれかが話をしているのを、私は音楽を聞くみたいにぼんやり聞いている。金色に光っているビールのカップを倒してびっくりしてすぐに起こして、少しだけ濡れてしまったスカートを見てみんなが笑う。

 私も笑いながら、それでもふと後ろに気配を感じる。それがそこにあるのがわかる。石のまくら。冷たくて固い。どこにいても、笑っていても、それは振り返るといつでもそこにあることを私は知っている。短歌を作る時私は必ずそこに頭を乗せる。そうして私は世界に首を晒す。ひんやりした風が首筋の肌をなでる。頭上に刃が光っているのが見える。それでも今のところそれはまだ光っているだけで落ちてはこない。

 私はその場所のイメージを離れて目の前の景色をもう一度よく見る。このあたたかくて明るい光に満ちている空気を、空を、緑を見る。そして目の前にいる人たちが、石のまくらに頭をつけることが決して無いように願う。彼らにとって枕はあくまでも柔らかく、空はあくまでも高く青くあるようにと願う。