チョップスティックの夢(短編小説)
国道をひたすら北に車を走らせて、真夜中過ぎに道路沿いのレストランに入った。なんでもないチェーンのファミレス。オレンジ色の電球の上のほこり、原色の文字が光る看板、少し油っぽいソファ。店員はメガネをかけたバイトの若い男の子ひとり。私たちは壁に面した一番はじの席に向かい合って座って、メニューを読む。料理を選ぶのに、いつも通り彼は私より数分長く時間がかかる。
注文と引き換えに運ばれてきた箸をつまみあげて、彼は言う。
「箸って英語でなんて言うか知ってる?」
「チュッパチャプス?」
彼は笑う。
「そんなわけないでしょ、惜しいけど」
私は少し考えて思いつく。
「チュッパスティックだ」
「チュッパチャプスに引っ張られすぎ」
彼は笑う。私が大好きな顔で。
チョップスティック、彼はそうつぶやきながら、セットのサラダを食べている。
私が「二種盛りステーキ定食」、彼が「アメリカンハンバーグ定食」を食べ終わって食後のコーヒーを飲みながら、この店にあるアイスクリームの10種類の味の中でお互いが何を選ぶかを当てるゲームをしていると、私たちのほかに1組だけいたお客さんが、席から立ち上がった。ちょうど店の対角線上のテーブルに座っていた美人の姉と美形の弟。だけどきょうだいにしては彼らは物静かで、そしてとても幸せそうに見える。
彼らが帰ってしまうと、店の中は本当に私たちだけになってしまった。バイトの男の子の姿も見えない。窓の外にももちろん人は通らない。なんだか本当に終わりみたいだね、と私が言うと、本当に終わるんだよ、と彼が答える。
「俺たちもそろそろ行こうか」
彼は立ち上がってコートを着込み始める。私が気に入って、10年着ればもとをとれるんだから、と説得して無理やり買わせた彼の紺のダッフルコート。
あと少しで終わるなんて信じられない。だけど本当に終わる。海沿いの道を走っている途中だといいなと私は思う。あのボロい青の車と、そして私たちふたり、朝日が昇る瞬間に、きっと。