ヘイセイラヴァーズ

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先が見通せるほどに透明な(宝塚雪組『ファントム』感想)

 望海風斗ファンの友人は、あの美貌でも歌声でもなく、そんなふうに完璧な人なのに「ピュアゆえにいつのまにかダメになっていく男」が似合うというところに惚れているそう。普段とても真面目な彼女のその発言に、隠されていたフェチを見てしまったようで一瞬固まった私だったが、『ファントム』を見ると彼女の言っていた意味がよくわかった。

 望海風斗が演じるオペラ座の怪人であるファントムは、怪人という異名に似合わずとてもピュアな人物で、それなのに一つも救われることなく滅びていく。

 

お願い 顔に隠された魂に触れてクリスティー

 

 そう歌う彼の魂は確かにとても美しく、だけどまさにこのピュアさが私にはひどく悲しく思える。なぜなら彼の持つそれは、人々や社会の間で揉まれて磨かれて輝いているものではなく、むしろその逆で、誰にも傷つけられることなく触れられることもなく、綺麗なままでただ打ち捨てられていたことによって保たれていたものだからだろう。そのピュアさゆえに、自分が求めている方向と現実がどんどんずれていってしまい、最終的に取り返すことができなくなるくらいに堕ちていく彼の姿はとても切ない。

 だが彼だけではない。この物語に出てくる人物たちはみんなピュアで魂が美しいと私は感じる。骨の髄まで腹黒い人がいない。悪役はあくまでもまっすぐに悪事を働き、王子様は常にキラキラと輝きを放つ。一体なぜなのだろう。それはきっとこの物語の舞台が「オペラ座」であるからではないか。無数の物語が、架空の世界が、夢のような歌声が、寄せては返すその場所に集う人々は、それらを愛しているという点で心のどこかで連帯していて、そのことが性格は違えど登場人物たち全員が一貫してもっているまっすぐさにつながっている。そしてそこにはもちろん、オペラ座の地下に住み着き、誰よりもオペラ座を愛したファントムも含まれていて、だから同じものを愛するもの同士、彼らはもっと理解し合えたはずなのだ。「ストーリー」という名の本物の怪人が住むそのオペラ座できっと。