ヘイセイラヴァーズ

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青の底(舞台「海辺のカフカ」感想)

 ブルーの海。ブルーの雨。ブルーの舞台。思えば、観客も「海辺」というタイトルに合わせてブルーの服を着た人が多かった気がする。

 

「思えば、ナカタとはいったい何だったのでしょう」

 舞台が終わってしばらくの間、このセリフが頭から離れなくて困った。朝ベッドの中で、通勤の電車の中で、仕事の手を止めたとき、日が延びた帰り道。思えば、ナカタとはいったいなんだったのでしょう。思えば。私とはいったいなんだったのでしょう。私とは?

 普通に暮らしていると決して思い出すことのないその問いの答えを、私がだすことはできない。これまで数多の哲学者、有名無名の詩人たちが考え続けてもまだ答えた者はいないのだ。

 

 この舞台の後で世界中で猫の写真を撮り続けている岩合光昭さんの写真展にいった。可愛らしい猫たちの写真の中で1枚だけ、その不気味さで私の目を引いたのは、ジョニー・ウォーカーの酒びんの上で猫がカメラに向かって笑っている写真だった。そう、それは笑っているとしか思えない写真だった。目は三日月がたに垂れてキラキラ光り、口は左右に大きく上がっていて牙が左右対象に剥き出されている。灰色の猫だった。あの顔、あれは一体誰なのだろう。

 

 私は逃げられないことの恐ろしさを思う。いつのまにか飲み込まれて気付いた時にはもう逃げられないその強い流れを恐ろしく思う。たくさんの水に囲まれて私たちはただ、ここに閉じ込められている。そこに希望があるとしても、それは見てはいけないもののような気がする。