ヘイセイラヴァーズ

本、舞台、映画、歌、短編小説、エッセイ、アイドル、宝塚歌劇、など、、、☺

再会はいつでも真夜中に(ドラマ『恋の病と野郎組』感想)

 教室を覗くといつも、彼は1番後ろの席で本を読んでいた。広い肩幅とブカブカの制服。周りにいる顔立ちの良い友だちに話しかけられるとたまに顔を上げて笑って、だけど絶対に手からは本を離さなかった。彼は一体なんの本を、毎日あんなに熱心に読んでいたのだろう?

 彼と図書委員で一緒になった時、だから私は飛び上がるほど驚いた。うれしかったけど、緊張して話をするどころではなかったので仲良くなれるはずもなかった。だけど一度だけ、他の男の子たちが私のお願いを聞いてくれずに困った時、いいからやるぞ、と立ち上がって助けてくれたことがある。

 卒業式の朝、彼の下駄箱に手紙を入れた。入れてすぐに走って教室に戻り一日中ドキドキして卒業どころではなかった。帰りに彼が道の向こうからまっすぐにこちらに向かって歩いて来たので時が止まったようだったけれど、彼は私にたどり着く前に、取り巻きの女の子たちにさらわれて、私はその隙に逃げ出した。

 走ってばかりの卒業デー。

 

 ドラマを見て、彼らのピュアな恋がむずがゆくて見ていられなくて、そうしてとてもうらやましくなったけれど、じっくり思い出してみれば私もじゅうぶんやらかしていたのだった。

 いくらSNSの時代になっても、私たちはお互いに細い糸を手繰り寄せあわなければつながりつづけることはできない。彼の名前はいくら検索してもインターネットのどこにも見当たらず、あの日手紙に小さく書いた私のメールアドレスにメッセージが届くこともない。彼が本当にいたことを証明できるのは、何度も何度も再生する自分自身の記憶と、卒業アルバムの小さな写真、そして真夜中のTVの中に突然現れるどこか彼に似ている後ろ姿だけだ。