ヘイセイラヴァーズ

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恋とネットワークについて(エッセイ)

 ラインという便利なアプリがこの世にはあって、それは私たちの生活を柔らかく縛る。

 学生時代の元カレのラインのプロフィールにDISH//の歌が設定されていて、私は彼らの音楽を知った。

 メンバーがイケメンでモテそうだから一見わかりづらいけれど、彼らの音楽は意外と、意外と以前付き合っていた女の子に対する未練の歌が多い。

 

 例えば「Shape of Love」という歌で、彼らは泣きそうな声でこう歌う。

 抱えた優しさと愛 全部あげたのに君は なんでここにいないんだろう


DISH//『Shape of Love』#HOMEDISH ver.

 

 例えば「へんてこ」という歌では、新しい恋を見つけるに当たってこう歌う。

 引きずり倒した過去の恋が また同じような恋を連れてきた 頭の先に走る刺激


DISH//『へんてこ』#HOMEDISH ver.

 

 「猫」という歌。

 猫になったんだよな君は いつかふらっと現れてくれ 何気ない毎日を君色に染めておくれよ


DISH// - 猫~THE FIRST TAKE ver.~ / THE HOME TAKE

 

 卒業してから、私と私のひとつ年下の彼は地元の駅で再会した。お互い見慣れない別の高校の制服を着て、古いホームの隅っこで。その日から私たちは何度かデートをした。プリクラを撮ったり、お昼ご飯を食べたり。河川敷の公園をふたりともパーカーとジーンズ姿で手も繋がずに延々と歩いていた様子はもしかしたら兄弟に見えていたかもしれない。私はよく覚えている。彼がその時話していた、学校の友達についてや好きな女優さんの話。小さい顔に長いまつ毛の影が落ちていたこと。暑い日差しと夏休みの始まり。その後私は彼のことを思い出したくもないようなひどい振り方をして連絡は途絶えてしまった。(だけど数年後なんと私たちは教習所で再会したのである!狭い町だ。)

 二度目の再会からも長い時間が経ち、その間に別の人を好きになったりもして、今になって振り返ってみると、彼は私が思っていた以上に私を思ってくれていたのだと気づく。自分の青春をかけて好きになってくれたのは人生で彼だけだったと思う。

 彼がDISH//を好きだと知った時、彼らの歌を聞きながらきっと彼は私のことを思い出すだろうと感じた。思い上がりかもしれないしとっくに私のことなんて忘れて幸せになっているかもしれない。その可能性のほうが高いしそれをもちろん望んでいるけど、私の持つ何かのエッセンスが彼の中に今もきっと含まれていると信じている。そうでなければ嘘だ。人生が何のためにあるのかわからない。

 彼が私に送ってくれた短いメッセージのひとつひとつ。恥ずかしくなるようなアプローチの言葉や、冷たい私への弱気な返信。時には単なる友達としての優しい励ましだったり。それらの光る言葉たちに操を立てて、私はどうしても自分のラインの名前を変えることができない。名字が変わった私に気がついて彼が何を思うかを考えたら。立派に誰かのものになった私に気がついたら、彼はいったい何というのだろうか。