ラーメン(味覚にまつわる短編小説③)
ケイくんってめちゃくちゃおしゃれだよね?
ん?そう?って言いながらケイくんはラーメンに目が釘付けになってる。四限が終わった後のこんな時間にお昼を食べてる人なんて私たちの他に誰もいない。
なんでだろう?帽子かな?
私は分析しようとするけどケイくんはそんなんどーーーでもいいって感じで割り箸を割ってもう麺をすすってる。帽子を取ってぺったんこになった前髪を手でとかしながら、鼻水をすすりながら。
まあいいやと思って私も麺をすする。学食のラーメンは量も少なくてあっさりしてるけどあったかくてしみる。プラスチックの器はとても軽い。
まあたしかに、よく思い出してみればケイくんもいつも同じ服ばっか着てるか。白いトレーナーか黒のチェックシャツ。やっぱり意外にスタイルがいいからかな。オーバーサイズなのがポイントなのかな。さりげなく身に着けてるって雰囲気で本人が疲れていればいるほどかっこよく見えるんだよな。
ふとみるとケイくんはもうラーメンを食べ終わって両腕を伸ばして伸びをしてた。はあっと息を吐いたその唇は油にコーティングされてぴっちりとぬめぬめしていて、たぶん今舌でなめたらしょっぱくておいしい味がする。ケイくんは帽子をかぶり直してる。目の下の黒いクマ。
私はそのときになーんかわかった。今この瞬間に静かに私の片思いが死んだこと。彼と恋人になることは、私には絶対にありえないということ。目の前で両足を投げ出してケータイをいじりながらうっすら笑っている彼に触れることは、今後絶対にないんだということ。
私は自分の器に残っている透明なスープを飲み干して立ち上がった。ケイくんもケータイをジーンズの後ろポケットにしまって、何も言わずに私につづいて立ち上がる。明日私の顔がむくんでいてもそれはラーメンの塩分のせいで間違いないということ。彼はその話を何の疑いもなく信じるだろう。