ヘイセイラヴァーズ

本、舞台、映画、歌、短編小説、エッセイ、アイドル、宝塚歌劇、など、、、☺

2018-04-01から1ヶ月間の記事一覧

淡く薄く、揺れる画面の奥の(映画『君の名前で僕を呼んで』感想)

退屈な夏だった。 脳みそまで溶けるような暑い夏。 太陽の強い光がじりじりと紙を焦がしていくような陽射しの下で、ペラッペラのペーパーバックの文字を追う。ページをめくるたびにガサガサ音がする。昼間は暑すぎてほぼ半裸でごろごろ過ごし、我慢できなく…

嗚呼、それにしてもイケメンの無駄遣い(映画『帝一の國』感想)

高校時代は、青春時代だ。誰も異論はないだろう。 だけどそのことを彼ら自身も意識していて、高校入学と同時に「青春しようね」と自分たちで確かめ合うのには違和感を覚える。そう、それは自分で自分のことを「私って天然だから」と言っている人を見ているの…

春宵(短編小説)

米津玄師「灰色と青」MVの菅田将暉に捧ぐ 風の強い、漆黒の夜だった。薄い紙にこぼした濃い墨がゆっくりゆっくり染みこんだみたいなたっぷりした深い暗闇に、星は一つも見当たらず、月だけがゆりかごにするのにちょうどいいくらいに欠けていて、ゆらゆら揺…

love letter for all dancers(短編小説)

「踊るって神様に祈ることと本当に変わらない。 ここに私がいます、確かにいますって。 こうして生きています、楽しんでいます、体があって嬉しいです! そして宇宙のリズムを身体で感じていますって。」※ 日曜日の十一時になると、彼は必ずその広場で踊って…

女子の嫉妬は根深く屈折なう(宇垣美里コラム『人生はロックだ!』感想)

負けた、負けました。 笑いながら白旗振って降参でーす。 だって読みました? 宇垣美里アナウンサーのマイメロ論。 「ふりかかってくる災難や、どうしようもない理不尽を、一つひとつ自主的に受け止めるには、人生は長すぎる。そんなときは“私はマイメロだよ…

八重歯を持つ者はみな天使(2/3宝塚雪組『SUPER VOYAGER!』感想)

「初めてのレッドカーペットはドキドキで、前夜はうまく眠れなかったほど。でも車を降りてカーペットに足を着けた瞬間、ふわっと風が吹いてドレスの裾がきれいに風に乗ったの。」 カリスマモデルの水原希子はそう語った。そして彼女が車から降りたったその瞬…

ギロチンより愛を込めて(2/3宝塚雪組『ひかりふる路~革命家マクシミリアン・ロベスピエール~』感想)

舞台をつらぬく一筋の光線。 左下から右上へと、開演前から舞台を斬り裂く、ギロチンのまっすぐなヤイバ。 そう、この舞台は大きなギロチンに見守られた愛の物語である。 あるときは壁の模様に。 あるときはひなたとひかげを分けて。 あるときは服のもように…

煙草(味覚にまつわる短編小説⑨)

目を覚ますと、もうお昼はとうの昔に過ぎていた。リビングに行くと宏太がおはようと振り返る。そしてテレビに向き直る。二人で選んだグレーのソファ。その後ろで観葉植物のパキラの葉が揺れて、いつも通りの日常。安心で幸せ。 宏太が私の髪についた寝ぐせを…

ムール貝(味覚にまつわる短編小説⑧)

十二時間のフライト直後の夕食がムール貝山盛りっていうのはなかなかハードだな。真っ黒い殻たちがオレンジ色の照明の下でぎらぎら光って、まるで口を開けて笑っているみたいでとってもグロテスク。ケイトも私も皿の前で絶句した。信じられない量と、信じら…

パクチー(味覚にまつわる短編小説⑦)

朝からパクチーはキツイっす。 そう言った私の寝起きのかぼそいガサガサ声は、やっぱり高血圧で朝から絶好調の裕翔には届かず、水道の音にすらかきけされた。 パクチーは大好きだけど朝からパクチーサラダはどうしても無理。さすがに味と匂いがダイレクトす…

舞い上がるマリーゴールドの渦の中で(映画『リメンバー・ミー』感想②)

毎日乗る電車の窓から、春になると満開の桜の木が見えるわけだけれど、桜の開花が頂点に達したある一日だけ、本当に電車の窓全体が隙なく桜の花びらに覆われて、しばらく桜のトンネルをくぐっているような瞬間がある。その時、綺麗だと思うより少しだけ早く…