カレー(味覚にまつわる短編小説②)
二度目にだいちゃんの部屋で目が覚めたのは、カレーの匂いがしたから。
ベッドからだいちゃんを見ると、台所でカレーを作ってた。しかもレトルトじゃない、スパイスを何種類も使った、本格的なカレー。
私はひざから崩れ落ちた。ワンナイトラブの翌朝に本格的なカレーって。つくるか、フツー?でもそうだ、たしかにこいつはそういうヤツだ。
ちょうどできたよ~。
だいちゃんは鼻歌交じりにカレーをよそってテーブルに座った私に出した。一口食べると、確かにおいしい。そりゃおいしいよ。あれだけ凝ったつくり方してれば。そして悔しいのは、だいちゃんがスプーンをくわえたままでこっちの反応をうかがっている上目遣いの顔がむちゃくちゃかわいいことと、さっき立ち上がった時にちらっと見えた背中がむちゃくちゃタイプなこと。両方とも、昨日からうすうす気づいていたけれど。
朝日を浴びてこっちを振り返って笑ってただいちゃんは、いまどこで何をしているんだろう。私はカレーを食べるたび、だいちゃんのことを思い出す。友だちとお店でカレーを頼んでも、家で一人でレトルトカレーの袋を開けても。もう一つ悔しいのは、あの時を超えるカレーにまだ出会えていないということ。
今でも彼は誰かに突然あのカレーをふるまっているだろうか。誰かにあの背中を見せつけているんだろうか?