ヘイセイラヴァーズ

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夢をあきらめない(セクシーゾーンライブ『repainting』感想)

 私にはその日、使命があった。

 それは松島聡くんにBL映画の出演依頼をすること。

 ことの経緯は数日前にさかのぼる。

 その日私は、映画『君の名前で僕を呼んで』を見ながら飲みかけのコップをぐしゃりと握りつぶした。これを日本で撮るとしたらエリオ役は絶対に松島聡しかいない、と武者震いがきて。他のどんなかっこいい子でも演技力のある子でもなく、是非彼に。

 なんだろう、あの媚びた瞳、たまに見せる誰よりも大人びて人を見下ろす表情、年上のお兄さんに見せる心を許した笑い方と嫌悪感の出し方、あてつけに女の子に優しくスルところ、狂おしいささやき声、そのエリオのすべてを彼に演じてもらいたいと思った。テレビでよく見るあのいつもの笑顔で、そしてまだ誰も見た事のない蠱惑的な顔と身体で、演じてもらうなら彼しかいないと思った。エリオの中を通り過ぎて行った恋が、彼の中も通り過ぎて行って、一皮むけて、最後に暖炉の前で彼の目から落ちる涙を見たい。

 そういうわけで私は、彼にこの映画に出てもらうよう伝えることにした。

 ちょうど三日後にはセクシーゾーンのライブに行くことになっていた。

 私の作戦は三つ。まず一つ目は「聡くんBL映画出て」といううちわを彼に見せる事。二つ目は「聡くんBL映画出て」と彼が近くに来たら叫ぶ事。そして最後の一つは「聡くんBL映画出て」と彼に念を送る事。

 そう意気込んだライブではあったが、結果から言うとこれらの作戦はすべて失敗に終わった。「念を送る」という最終手段かつ家でも出来そうな最後の作戦でさえ、ライブ中に思い出すことはなかった。

 子供っぽく無邪気かと思いきや、意外にぶっきらぼうで男っぽいたたずまい、話に入っていけなくて拗ねてそんな自分を責めていることがありありと伝わってくる横顔、優しい歌声と説得力のある台詞。それらの姿を前にしてはこのような自分の使命などおこがましくて思い出す気にもならない。

 年下の男の子をかわいがるという恋愛の発想を今まで持ったことがなかったが、そのセオリーは見事に崩れ去った。年下を求めるようになったのは単に私が老けただけなのかもしれないが、とにかくその癒し効果は絶大。思わずこれまで私のリアル人生に登場した後輩男子の顔を一人ずつ思い浮かべてみたが、お互いに願い下げなメンバー。私にはその癒しを得るチャンスなど来たことはないのだった。あきらめるしかない。

 しかしこうして落ち着いて考えてみると、やっぱりあの映画に彼は似合うとますます確信する。女の子との恋愛よりも、男性に対して尊敬とも恋愛ともつかない感情を持って戸惑ってもらいたい。

 私はそれをあきらめない。彼を間近で見たらつい惑わされてくらっとなってしまった私ではあるが、あきらめてはいない。彼が何か月かの間、一日中、毎日監督と膝を突き合わせて、ぼろぼろになるまでエリオの役のことについて厳しく話し合いをさせられて、追いつめられて泣かされて、そうして無理やり良い表情を引き出されて出来たその映画が、彼の出世作になることを。どうかこの夢が実現しますように。子どもから大人に変わろうとしている彼とその他のいろいろがこれ以上年を取らないうちに。