ヘイセイラヴァーズ

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オモシロキ コトモナキヨヲ オモシロク(宝塚星組『ANOTHER WORLD』感想)

 この真実は、果たしてこの世でもあの世でも同じみたいだ。

 あの世(アナザーワールド)で繰り広げられるこの舞台は、オモシロクできるところは貪欲に、でもそれ以上に、オモシロキコトモナキ何気ない会話の言い方一つ、仕草や表情の一つを取っても、出演者全員が全力でオモシロクしようと魂を込めているのがひしひしとわかる。そしてそれによって、登場人物の造形がひとりでも違っていたら、演じる役者がひとりでも違っていたら、全く違う舞台になるだろうというディテールの流動性、同じ舞台は二度とないというライブ感、生々しいつかみどころのなさを強く感じた。

 パンフレットにはこのように書いてある。

「人間にとって死は不安なもの、怖いものであることにちがいはありません。(中略)それを落語では笑い飛ばして、地獄もそんなに悪い所ではないですよ、こんな楽しい所なら行ってもいいんじゃないですかと思うような地獄を描いているのです。」

 死からの逃避、または浅はかな考えゆえの笑いではない。むしろすべてを知っていてそれによる悲しみを味わい抜いて、その上で笑っているということ。だからこそ笑っているということ。その世界観は、深刻に考え込んで眉間にしわを寄せていることだけが人としての深みではないことを思い知らされる。

 紅ゆずるの魅力は、軽快なアドリブ、個性のある美貌、隠しきれぬ愛情深さ。それだけではない。私はまんまと彼女に笑わせられながら発見していた。粗筋ではなくディテールを楽しむ主義と、すべてを深く考え抜いた後にあえて楽観的な態度を貫く渋み。落語に深く通じるこの新しい二つの魅力こそが、紅ゆずるとそして今の星組にしかない輝きなのだろうと。