ヘイセイラヴァーズ

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お金と幸せについて(エッセイ④)

 東京でOLをしていると、とにかくお金が必要だ。渋谷や新宿や、そのほかのどんな街にも、キラキラしたものがたくさんあって、それらはすべて幸せそのもののような形をしている。しかもそれらはお金と引き換えに自分にも手に入れることができる。

 例えば秋になればほしいもの。

 きれいなレースの下着だとか(夏の汗を吸った下着と総取りかえしたい)。新しい鼈甲メガネだとか(涼しくなると顔に汗をかかなくなって眼鏡がずり落ちないのでステキな眼鏡女子になりたい)。クリスチャン・ディオールのオーデコロンだとか(村上春樹の小説に出てくる白い花の香り)。尽きない、だけどお金で買うことのできる幸せ。

 岡崎京子の漫画『pink』の主人公ユミちゃんは、昼間はOL、夜は身体を売って、お金を得ている。そのお金で彼女は、洋服を買い、化粧品を買い、お花を植物を美味しいご飯を手に入れて、ペットのワニを養っている。これは私のOL人生のバイブルだ。

 なぜなら、誰よりお金をほしがっているユミちゃんはそれでも誰より自由に見えるから。お金を得て好きなものを手に入れても、部屋中水浸しにしてそれらをぜーんぶを失ってもどっちにしたって幸せなんてあるわけないじゃーん。そんな顔をユミちゃんはずっとしていて、その顔に私は憧れているのだ。お金が欲しいから、その分きちんと働いて、だけどだからって私が幸せとは限らないと言いたげなその誇り高い様子。

 ユミちゃんは言う。会社の帰り道に買って来て部屋に飾ったピンク色の花を見て。

 「お金でこんなきれいなものが買えるんなら、私はいくらでも働くんだ。」

 その言葉が私を四年間会社へと向かわせた。お金で得られる幸せを買うための真っ当な労働。

 お金があるから幸せとも思わないし、お金がなくても幸せになれると思うことも私にはまだできない。だけどお金があってもなくてもあごをツンとあげている美人なユミちゃんの顔を、私は忘れることができない。それはやっぱり、一番ほしくて大切なものはお金では買うことができないということをどこかで私も知っているからなのだろうか。