ヘイセイラヴァーズ

本、舞台、映画、歌、短編小説、エッセイ、アイドル、宝塚歌劇、など、、、☺

流れる季節の真ん中で(宝塚星組『霧深きエルベのほとり』感想)

今週のお題「卒業」 カイちゃんの舞台降りの、真横の席のチケットが取れたのに、私は行くことができなかった。仕事をどうしても休むことができなかったのだ。だけど私は、もともと自分が一方的に片思いした相手とは、ことごとく縁がない星の元に生まれついて…

おみやげばなし(短編小説feat.『海辺のカフカ』)

ホシノちゃんが私に電話をかけてきたのはその日真夜中を過ぎてからだった。 どこかの街中からかけているらしく雑音だらけで声がとても聞き取りづらい。 「俺っち、ものすごい冒険をしてよお」 そう得意げに話し始めた彼の話を受話器を膝と耳の間に挟んで赤い…

太ったおばさんのはなし(短編小説feat.『フラニーとゾーイー』)

「今度の職場は周りに何もなくて本当にさびしいところです。お昼ご飯は家から持っていかないと食べそびれてしまいます。そっちのように都会じゃないからカフェやレストランなんてもちろんないし、コンビニだって歩いて二十分のところに一軒あるだけ。(往復…

芸術家の条件(映画『ライ麦畑の反逆児〜ひとりぼっちのサリンジャー〜』感想)

幸せな人間は芸術家になることができない J.Dサリンジャーという作家がいる。『ライ麦畑でつかまえて』、『フラニーとゾーイ』、『ナイン・ストーリー』などの物語を残す。彼の人生についての映画『ライ麦畑の反逆児』のエンドロールの直前、ほとんど一番最…

白いジャケットの背中を追いかけて(有栖川有栖『インド倶楽部の謎』感想)

火村英生は私の理想の男性。冷静で頭が良く鼻が高くて若白髪で女嫌い、だけどモテる。猫好き、アリス好き、おばあちゃんキラー、暗い過去を抱え、ケンカは強く、酒には弱く、口は悪いが、大真面目な顔で冗談を言う。仕事のしすぎでいつもボロボロ、考えると…

先が見通せるほどに透明な(宝塚雪組『ファントム』感想)

望海風斗ファンの友人は、あの美貌でも歌声でもなく、そんなふうに完璧な人なのに「ピュアゆえにいつのまにかダメになっていく男」が似合うというところに惚れているそう。普段とても真面目な彼女のその発言に、隠されていたフェチを見てしまったようで一瞬…

頭の中の君はまるで(Hey!Say!JUMPライブ感想)

ダンスのコンテストでプロが卵たちにアドバイスをしていて、その内容というのが「技術が同じくらいのレベルの人たちの中で頭ひとつ抜け出すには、どうしようもなく痺れる、忘れられないくらいにかっこいいシルエットなり表情なりがパフォーマンスの中にある…

プリンセスの変貌(映画『シュガーラッシュオンライン』感想)

好きな男性のタイプを友人と話していて、本気でケンカになりそうになったことが一度だけある。友人は「しっかりした性格でお金と学歴があるひと」が好きだと話した。私は「自分が好きなことをしていて顔がかっこよくて年下」が好きと言った。ケンカになりそ…

FOUNTAIN(短編小説)

長い舞台が決まると、私の生活は俄然規則正しくなる。朝は必ず7時に目が覚めるようになる。だけど今朝はなにか様子が違っている。いつもどおりに布団を足元に折り返して、床にゆっくりと足をつける。このごろ急に寒くなってきている。床はつるつるととても…

冬がはじまるよ(エッセイ⑦)

「冬がはじまるよほらまた僕のそばですごく嬉しそうにビールを飲む横顔がいいね」という歌を私は寒くなってくると必ず、居酒屋で家で、相手に横顔を見せつつビールを飲みながら自分で歌う。毎年のことで周りの人たちはいいかげん嫌になってきていると思うけ…

その微笑みはまるで(宝塚宙組『異人たちのルネサンス』感想)

真風涼帆の歌声を聴くと涙が出そうになる。 自分の思いをあまり言葉に出さずに、いつも素敵な微笑みを浮かべていて、そうやってそこにいることがみんなにとって当たり前のような、物静かなトップスター。 彼女は今までも、これからもどんな思いを自分ひとり…

チョップスティックの夢(短編小説)

国道をひたすら北に車を走らせて、真夜中過ぎに道路沿いのレストランに入った。なんでもないチェーンのファミレス。オレンジ色の電球の上のほこり、原色の文字が光る看板、少し油っぽいソファ。店員はメガネをかけたバイトの若い男の子ひとり。私たちは壁に…

モテるということ(エッセイ⑥)

恋愛ルールブックを侮るなかれ。 『上級小悪魔になる方法』という本を読んだおかげで、私の大学生活はまずまずモテたと思う。例えばイケメンの先輩と古着屋さんデートをした。男友達に夜道で突然手をつながれたり、「幸せにするよ」という世にもキザなセリフ…

私もいつか彼を求める(宝塚『エリザベート』感想)

私は『エリザベート』のいったい何にこんなに惹かれているのだろう。 黄泉の帝王トートへの憧れ?爛熟したハプスブルク家の悲しい滅亡?民衆たちの圧倒的な怒りのエネルギー?そのどれもであり、また、そのどれでもない。 きっとそれは、出てくる人々全員に…

踊るアホーに見るアホー(エッセイ⑤)

8月の青森に、ねぶた祭りを見にいった。 真夏のはずなのにすでにうっすら寒かったのは、雨のせいだったのだろうか。肝心のねぶたは濡れないように透明な袋で覆われていて、そのせいで中の光は少しだけやわらいでいる。雨の水滴のせいで、取り囲む跳人(ハネ…

あの場所で(短編小説feat.映画『ハナレイ・ベイ』)

彼がハワイのハナレイ・ベイで鮫に喰われたという情報を私は先生から聞いた。外は雨が降っていた。 「いつですか」 私は先生にそう尋ねた。先生はその事故があったのがいつだったか、という質問だと勘違いして、その時の様子を詳しく話し始めた。私が聞いた…

この場所で(短編小説feat.映画『ハナレイ・ベイ』)

ハナレイ・ベイに来て七日目。正直言って、最高だ。二日酔いだろうがなんだろうが、ワクワクしながら目が覚める。友だちも出来たし、英語も少し話せるようになった。こっちで出来た友だちとの写真と、英会話のスキルは日本に帰ってから(モテるために)最大…

続・火星の井戸(短編小説feat.『風の歌を聴け』)

兄貴のウォルドには確かに考えすぎの傾向があった。宇宙の広大さに倦んで勝手にひとりで旅に出て音信不通になるくらいには。それに比べて俺は楽観的だと昔から言われている。世の中には結構おもしろいこともおもしろい奴も多いと思うし、第一、宇宙の広さを…

ちほさん(短編小説feat.『石のまくらに』)

課題図書:『石のまくらに』 ピクニックと連絡が来て思い出したのは、小さい頃よく読んだ「赤毛のアン」のこと。アンはある晴れた日、家の近くの花畑に親しい友達数人とピクニックにいく。お昼ご飯やお菓子を詰めたバスケットを持って。朝焼いたビスケットの…

言葉と香りに守られて(村上春樹ブッククラブに参加せずに)

課題図書:『ねじまき鳥クロニクル』 渋谷ヒカリエのクリスチャン・ディオールのお店でクミコの香水を嗅いだ。綺麗な売り子のお姉さんに優しく勧められたけれど、私にはまだとても似合わない、白い花の香り。 動物、血、政治、水。あんなにもいろいろなにお…

片思いの夢(TWICE/歌詞の分析)

◎あるいは9人組アイドルに弱いだけかもしれないけれど 「sign感じて!signal見て!でも全然通じない! 目を合わせ そぶり見せても 全然反応ない!」 TWICEの「signal」を聴くと毎回泣きそうになるのはなぜだろう。それはきっと今までしてきた自分の片思いの…

愛を知れば(ヘイセイジャンプ/考察)

私たちはいつでも、危険にさらされて生きている。一晩で人生は変わる。例えばそれは、推しのゴシップ。 推しを持つ者は幸せだ。見るだけで、考えるだけで幸せになれることがあるなんて絶対に生きやすい。だけどその生きやすさの代償に私たちはより多くのもの…

青い部屋(短編小説)

「マチュピチュの遺跡からバスで降りる時に、見送りの少年が雄叫びした声が動物みたいで、あんなものすごい声を、初めて聞いた。」 高山なおみ『諸国空想料理店』 「ねえ、夜の動物園ってどんなだか知ってる?」 冷たい海の底みたいなブルーの空気の明け方、…

お金と幸せについて(エッセイ④)

東京でOLをしていると、とにかくお金が必要だ。渋谷や新宿や、そのほかのどんな街にも、キラキラしたものがたくさんあって、それらはすべて幸せそのもののような形をしている。しかもそれらはお金と引き換えに自分にも手に入れることができる。 例えば秋にな…

Garaxy Express in Tokyo(短編小説)

真夜中の最終電車は空いていて、まるで自分の部屋が移動しているみたいだ。 そういうと彼女は、じゃあ何してもいいよねと言って素早く煙草に火をつけた。白い煙が細く上がってあっという間に天井を這っていく。私は天井の端に小さな煙探知機を見つけて彼女の…

絵の効能(村上春樹『騎士団長殺し』感想)

目に見えるものをコピーするなら、写真を撮るのがいちばんだと思っていた。目に見えないものをコピーするなら、言葉で表すのがいちばんだと思っていた。だから私は中学校も高校も美術の授業を真面目に受けず、隣の席の友だちとの無駄話の内容ばかりをはっき…

デイ・ドリーム(短編小説)

明け方のタクシーに乗るのが好きだ。 だからなるべくぼんやりと窓の外の景色を眺めようと努力していたが、ダメだった。さっきまで目の前にいた彼女の姿が何度打ち消してもどうしても浮かんできてしまう。大学の同期で、三年ぶりに会った彼女は、薄いピンク色…

夏の終わりに(短編小説とエッセイのはざま)

昼間がクソ暑かったわりに夕方は涼しかったので、私たちは川原に座って花火が上がるのを待っている。周りには色とりどりの華やかな浴衣のたくさんの女の子たち、目の端でチラチラ揺れる髪飾り。その中で紺は少し地味だったかな、と私は気にしてばかりいる。…

消えて行ったラブレターたちについて(エッセイ③)

好きな人の下駄箱にラブレターを入れたのは、高校生の頃だ。 彼は物静かな人で、教室をのぞくといつも本を読んでいた。誰かに話しかけられると本から顔を上げて笑って何か答えていて、その優しさとおとなっぽさに私は憧れた。 その作戦を決心した朝、私は誰…

シロの言い分(短編小説feat. 『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』)

窓を開けて、雨を見る。煙草に火をつけて、私は思い出している。私がまだ「ユズ」ではなく「シロ」だったときのこと。名古屋から遠く離れたこの町で。 あの夜私は、たしかに彼の部屋にいた。彼の部屋は思った通りとても居心地が良かった。灯りはオレンジ色…